6月議会に自民会派から提出された「家庭教育支援法の制定を求める意見書」について反対討論を行いました。
広田みよ 議員
私は、ただいま上程されました、議案第4号「家庭教育支援法の制定を求める」意見書につきまして、反対の立場から討論を行います。
本意見書案が、制定を求めている家庭教育支援法案は、国が家庭教育支援の基本方針を定め、地方公共団体は、国の基本方針を参酌して、基本方針を定め、保護者に対する学習機会や情報の提供や啓発活動、学校や保育所等の設置者や地域住民に対し、その施策への協力を求めることなどを内容としています。
この家庭教育支援法案は、2012年4月に、安倍晋三氏が会長となり発足させた「親学(おやがく)推進議員連盟」が長年立法化をめざしてきたものであり、政府・与党が国会に提出しようとしています。議連の名称に使われている「親学」とは、家庭生活の「あるべき姿」を具体的に提唱し、その「あるべき姿」に応じた子育てを保護者に求めるというものです。またこの議連が主催する学習会では、「伝統的な子育てで発達障害を予防できる」などという、科学的に何の根拠もない理論が展開されており、発達障害のある当事者や家族などからも強い批判が寄せられています。
家庭教育支援法案は、国が設定した家庭教育の「あるべき姿」を、地方公共団体を通じて国民に徹底する仕組みを可能とするものです。同法案では、このような家庭教育を行うことや、「保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせる」ことが「保護者の第一義的責任」だ、とされています。愛国心や公共心、規範意識といった、国にとって都合の良い価値観を「生活のために必要な習慣」として、国が「支援」の名のもとに、保護者や子どもに押し付ける危険が大きいものです。そうなれば、子どもの思想・良心の自由や学習権を著しく侵害することとなりかねません。
また、特定の家族像を国が、「望ましい」として設定することは、その家族像に当てはまらない多様な個人の生き方を否定することにつながり、家族における個人の尊厳と、両性の本質的平等を規定する、憲法24条の精神に反するものと言わざるを得ません。
そもそも、現在の子どもをめぐる問題は、「家庭教育の低下」によるものではなく、1980年代から進められてきた、労働の規制緩和による長時間労働や、それが労働者のワークライフバランスを阻害していること、若者の非正規化、社会構造の変化によって共働き世帯が増加する中、子育て支援制度が不十分なため引き起こす、むしろ制度側の問題と、そして、格差が拡大し、貧困が、社会のひずみ、国民生活へ多大な影響を及ぼしている結果でもあります。
このような状況で、「あるべき家庭像」を法で打ち出せば、現在でも全力でがんばっている親たちを、追い詰めることになりかねません。また、働く母親やひとり親に自責の念を抱かせ、孤独な子育てをしている専業主婦を、完璧な母親にならなければという精神状態へと追い込む恐れもあります。多様な個の結びつきによる家庭をつくっている人々をも排除しかねません。
まずは、労働環境の整備や公的育児施設の充実、そこで働く保育士や教員の待遇改善など、制度を整えることが、国や地方自治体の役割です。それを怠たり、子どもをめぐる問題を「家庭の責任」にし、「親はもっとがんばれ」という道徳的メッセージで乗り越えようとするのは現実的ではありません。
以上のように家庭教育支援法案は、現在の子どもをめぐる問題を家庭個々の問題に転嫁をし、子どもの思想・良心の自由や、学習権を侵害する危険が大きく、憲法24条の精神にも反するものであることから、その制定を求める本意見書案には反対です。